クリエイティブ・チームは何時間でできるか(学術ブログ)

カンサス大学のジェフリー・ホール氏による友人関係に関する研究(Hall 2018)に刺激を受けている人は少なくないだろう。「友達になるには何時間かかるのか」といった非常にシンプルな問いを立て、その答えを探る実証研究論文である。最近引っ越しをした355人の米国人を対象にネット調査を行った結果、「カジュアルな友人関係」(casual friendships)は約30時間を共に過ごせばでき始め、「友人関係」(friendships)の形成には約50時間が必要だと分かった。「良い友達関係」(good friendships)までは少なくとも140時間かかるという。

この研究では、経過した時間だけでなく、何を一緒にするかが友人関係形成の大事な決定要因であることも示された。職場や教室という「義務的」な設定以外の場所で時間を共に過ごすのが必要不可欠だと指摘している。

このホール氏のアプローチを創造性研究に応用したらどうなるか。例えば、「クリエイティブ・チームは何時間でできるか」といった課題設定は有意義だろうか。簡単には答えにくい問いではあるが、何か新鮮な発見がありそうな、期待の持てる面白い研究となりそうだ。

さて、創造性研究への応用を考えれば、ホール氏の友人関係の研究から少なくとも三つの視点を引き出せる。第一に、チーム結成は間違いなく時間的なプロセス(temporal process)であり、その段階を分析すると共に、スピードも分析できるはずだ。第二に、時間といった次元と共に、チームで何を一緒にするのかも細かく調べることが必要だろう。例えばホール氏の論文で、ちょっとしたおしゃべりではなくて、お互いをもっと知ろうとするような話し方(striving behaviour)が大事だと分かったように、創造的チーム結成を推進するための話し方・行動も特定できる可能性が十分にあるだろう。第三に、友人関係と同様に、創造的なチームの「誕生メカニズム」を理解すれば、加速化も可能となるだろう。

一方で、友人関係研究の創造性研究への応用には限界もある。友人関係研究においては、ある特定の人と「友達になったと感じる」といった個人の主観が分析の中心となる。しかし、創造性研究においては主観的な回答だけでは足りない。「私が参加しているチームが創造的であると感じる」といったデータは参考になるが、それを超えた概念や指標を示す必要もある。

そこで組織論における創造性研究から、二つの視点を借りることができる。まずはHargadon & Betchky (2006年)の著名な論文だが、「グループが“なるほど!”と思う洞察の瞬間」(moments of collective insight)という現象だ。例えばこの著者たちが用いた事例のように、医療器具の専門家やファッションデザイナーが参加するチームが、ある時に「ポンプのついた運動靴を作れないか」と気づく場面がそれだ。このようにチームの参加者の相互作用によって新しい発想が生まれる時にこそ、「創造的チームが誕生した」といった研究アプローチがある。

また、Shalley & Perry-Smith (2008年)の「チームの創造的認識」(team creative cognition)といった考え方がある。このより心理学的な概念を簡単に定義すれば、「グループが共有する問題解決の枠組みを構成する認識プロセスのレパートリー」である。つまり、グループを構成する個人が持つ問題解決のためのアプローチの融合でできる、集団レベルの問題解決アプローチのことだ。

Shalley & Perry-Smithによれば、創造的に機能しているチームは、(1)新しい課題を一緒に認識し、定義できる。そして(2)いくつかの異なった発想を組み合わせたり、その枠を変えたり、新しいオプションを提案したり、それからお互いに問いかけ合ったりすることができる。この二つのプロセスに注目すれば、研究者は「チームの創造的認識」の有無や発展度合いを分析することができる。

やや複雑な話となったが、「クリエイティブ・チームは何時間でできるか」という問いへの答えはここに潜んでいるように思う。もっと簡単に考えれば、チームが上記の(1)と(2)の行動ができるようになることが有用な判断基準となる。少し細かくいえば、本来研究対象となるのは、「クリエイティブ・チームの結成にかかる時間」より「チームの創造的認識の起動」(activation of team creative cognition)の過程とそれにかかる時間である。その結果として生み出される“なるほど!”の瞬間と新しい発想をさらに追跡すれば、創造的チーム誕生の一定のベースラインが見えてくるだろう。

 実際にこのような研究を厳密に実行するのは、時間も資源もかなり必要となるが、創造的チームの結成・活性化に関する知識へのニーズは、それなりに増えているかもしれない。組織デザイナーのダニエル・オスピナが指摘する通り、今の時代は仕事のスピードが早く、チーム結成・強化の支援にあまり投資しない企業が多い。プロジェクトの生死の循環も早く、チームの寿命が短縮している場合がある。だからこそ、価値の高い発想やアウトプットを創出できるチームの推進方法・加速方法について知るのが大事なのではないだろうか。

 

このブログで紹介している学術論文の出典情報

Hall, J. A. (2018) ‘How many hours does it take to make a friend?’, Journal of Social and Personal Relationships, p. 026540751876122. doi: 10.1177/0265407518761225.

Hargadon, A. B. and Bechky, B. A. (2006) ‘When collections of creatives become creative collectives: A field study of problem solving at work’, Organization Science, 17(4), pp. 484–500. doi: 10.1287/orsc.1060.0200.

Shalley, C. E. and Perry-Smith, J. E. (2008) ‘The emergence of team creative cognition: the role of diverse outside ties, sociocognitive network centrality, and team evolution’, Strategic Entrepreneurship Journal, 2(1), pp. 23–41. doi: 10.1002/sej.40.

 

Tuukka Toivonen