とりあえずビール・・・から始まるクリエイティブな「職場実験」
ビールというものが、職場の「クリエイティビティ」や「実験」と一体何の関係があるのか。日本でも急増しているコワーキングスペースに最近足を運んでいる人なら、ピンと来るかもしれない。そう、主要なコワーキング・チェーンであるWeWorkは、メンバー向けにいつでも無料で飲める生ビールを、ほぼ全てのスペースで提供している。利用者にとっても、魅力的な特徴の一つだ。
なぜこの新しいビールの置き方が気になるのだろうか。一つには、オフィスや仕事という場面に関する一種の発想転換であるからだと言えよう。これまで「仕事の後」あるいは「仕事以外の時間」に楽しんで良いとされていたものが、職場で、さらには仕事中でもOKというメッセージになっている。「仕事」と「遊び」の境界線や、通常の思い込みや習慣を(一見些細に見える工夫で)覆そうとしているのだ。
確かに、「いつでもビールが飲める」というびっくり感は面白いし、お酒があれば人が集まって活発に話すという効果も期待できるだろう。だが、WeWorkのビール実験は、単純なサプライズや「飲ミュニケーション」だけのためのものではない。むしろ、「好きなことをやりなさい」(Do What You Love)という、WeWorkの文化理念の大事な表現方法の一つになっていると言える。これで伝えたいのは、「私たちは社会の固定観念に縛られずに、そして人の目を気にせずに、好きなことを好きな時間にやっているぞ!」という態度やクールさであろう。そしてWeWorkはその「文化」を商品化し、特有のコワーキング・スタイルを売り込んでいる。
だからこそ、「職場実験」は面白い。小さなことから初めても良いのである。うまく行けば、組織全体の文化や戦略の一環となったり、新しい働き方を実現させる手立てになったりするからだ。
コワーキングの世界から刺激を受け、ビールかワイン、あるいは健康に優しいスムージーを提供してみるとか。食材を業者に用意してもらって社員が一緒にランチを作る曜日を設定する。そういったカジュアルな仕掛けで、共通スペースに集まる人たちのタイプはどう変わるのか。職場の雰囲気に何か変化が出て来るのか。会話の中身は微妙に違ってくるのか。
「働き方改革」といった大きな宣言や政策転換に比べ、このような手軽な試みはそれぞれの職場や企業のレベルで行いやすいものだ。提案する勇気さえ持てば、些細なことからスタートできる。そして実験だからこそ、「間違い」はなくて、「工夫」→「実行」→「観察」→「学び」という循環になる。
このブログを舞台に、グローバルな視点から「職場実験」のあらゆる事例や技や方法論を、これから月二回ほどのペースで紹介する予定だ。できるだけ読みやすいかたちで、職場実験のハードルを少しでも下げるような記事を提供したい。勇気と知識を増やして、必要以上に固まった制度・関係性・習慣を、みんなで徐々にほぐしたり、変えたりしようという狙いだ。
幸いなことに、今こそ実験の可能性をあちこちに見出せる時代だ。「Co-living」というコミュニティやイノベーションを生み出す生活の仕方、面接ではなく直接コラボレーションから始める「採用プロセス」、世界に散らばっているチームメイトが必要なときに集まることができる出張制度、子供やペットを歓迎する職場・・・いつの間にか、仕事の世界でも、ほぼ何でも可能になってきたように思える。
「とりあえずビール」からでもいい。些細な実験を試みて、どんな仕事の未来に辿り着けるのか、探検を始めよう。