コワーキングコミュニティを壊す「消費者意識」について

前回の投稿で、コワーキングにおける「金」と人との「つながり」の関係について考察し始めた。個人個人が払う(数万円の)利用料やデザインの魅力に頼る現在のコワーキングのビジネスモデルは、メンバーの多様性を阻害すると同時に、コミュニティ形成をリードする人材(スタッフ)への投資も無視されてしまう危険性が高い、と指摘した。今回はこの同じモデルが生み出すもう一つの現象について考えてみたい。「消費者意識」がコミュニティを壊してしまうという課題である。

 「消費者マインド」こそがコミュニティの敵?

現在のコワーキングスペースでは利用料に頼ることが「当然」の経営モデルとなっているが、そのモデルだからこそ生まれるデリケートな課題がある。それは、簡単に言えば、「金を払ったからサービスを提供してください」という態度や考え方として現れる。新しい利用者は、コワーキングがホテルやカフェと同様のものだと勘違いしてしまい、自分は「お客さん」の立場だと考える。お金を払うことに対して「サービス」を「もらえる」という期待を持つ。しかし、効果的なコワーキングスペースは、ホテルやカフェというよりも、スポーツジムや大学により近いものであって、“得”をする度合いは利用者自身の“努力”の度合いと比例すると言える。

例えば、思いついたビジネスアイディアを改善したいメンバーがいるとしよう。コワーキングスペースに加入しているのだから、そこからフィードバックや励ましがあれば様々な面で支援となる。さらには、自分が持っていないスキル(例えばマーケティングやブランディング戦略など)を教えてもらえれば有益だ。だけど、フィードバックや励まし、スキルシェアなどは、スタッフが「サービス」あるいは「商品」として提供することは難しく、むしろメンバー同士の自由意志や貢献意欲によるものである。

このように考えると、対価を求める態度や消費者的考え方、間違った期待を生み出すだけでなく、他人の発展や活動への貢献意欲をも下げることになりかねない。なぜなら、自分がお金を払った「消費者」であると優先的に意識すれば、他人に何かを「してあげる」ことよりも何かを「もらう」ことに、より注力しがちだからだ。

勇気を持ってハイブリッドになりきる

さて、このジレンマをどう乗り越えられるのか。ここで三つのポイントを提案したい。

(1)スタッフの「できること」と「できないこと」をはっきりと理解する。これまで述べてきたように、コワーキングのスタッフはコミュニティの代わりになって、「サービス」としてコワーキングに期待されるベネフィット(フィードバック・励まし・スキルシェアなど)を提供できるわけではない。できるのは、コミュニティの「起動」「維持」「問題解決」である。そして、コミュニティ形成がうまくいけば、そのコミュニティに積極的に「参加」する会員が最も得をすることになる。

(2)勇気を持って「ハイブリッド」になりきる。現時点で多くのコワーキングスペースや企業が、経営を利用料に頼っていると言っても良い。それはそれで良いが、同時に「ハイブリッド」になることが大事だと強調したい。「金」がつながりを壊していく可能性をまず認識し、それを防ぐ方向に進んでいくことが大切だ。常に「ここはみんなの貢献や相互支援・参加によって成り立つコミュニティですよ」と謳い、「この施設を使うためには利用料をいただくが、加入者は“お客さん”ではなく“メンバー”として扱うし、良いコミュニティにするには、みんなの貢献が必要ですよ」「ホテルよりジムあるいは大学のように、得をする度合いは自分の努力次第ですよ」と丁寧に説明する。例えば、ロンドンのImpact Hub Islingtonはこのようなアプローチを取っている。

(3)こういった価値観・考え方を新しい会員にしっかりと伝えるためのon-boardingを行う。ロンドンでは、The Conduitがこのようなプロセスを持っている。例えば、メンバー同士の会話を促進するためのルールや空間の説明をしたり、The Conduitが目指している社会変革について教えたりするようなことを含む。

これらのポイントを取り入れれば、利用料に頼るコワーキングの一般的なビジネスモデルを特に変える必要はなくなる。つまり「消費者意識」から「コミュニティ参加意識」の方向へ文化を持っていくことができれば、経営者も利用者も、より得をすることになるだろう。

Tuukka Toivonen